実る
かんな
とおい秋に
実るものはなんだろう
わたしが実家の門を通るときに
ふと、かいだ
祖父が築いてきた
歴史のにおい
短いとも長いともつかない
毎朝はやく
仏壇に水をあげる、祖父
その光景を久しぶりに見た
お経を唱える
幼いころに口ずさんだ
なむみょうほうれんげきょう
と意味もわからず
いまでも
正確な意味など
わかっていないけれど
わたしのお経はきっと
祖父のためにある気がして
この壮大な農園で
たわわになった果物と
ばらばらになった家族を実らせた
祖父の心中は
いまでも知れない、どうしても
顔を見れば
考えてしまう
どうしてか、涙がこぼれる
怒りや
罵りや
憎しみでは何も育ってゆかないと
足を引きずり
思うように体が動かなくなった
祖父は見つめている
壮大な農園に実る果物か
それとも
家から出ていった家族の面影か
そのひと際ちいさくなった
背中越しに
わたしも
将来を見つめている
おじいちゃん
今日、お父さんと一緒に植えた
ちいさなちいさな苗は
きっと
絆という根っこをはり
あの門をこえて
伸びてゆくよ
そして
いつかおとずれる秋には
ゆっくり、ゆっくりと
家族が実ってゆく
だからその時は
あなたの顔にも
笑みが咲き誇りますように