ある仔猫の一生
三之森寛容

小さな公園
いつもの様に
早起きして
円柱型の椅子の上
この世界は我がもの
なんて演じてみたり
そんな私は
猫です


トボトボ
トボトボ
仔猫はうつ向いて
“死んじゃったの…”
まんまるおめめで見つめられ
“そうか…それは悲しいね…”
顔の広い椅子の上の猫は得意気に
“どこの猫だい?”
まんまるおめめは瞬いて
“アリさんとセミさん…”
椅子の上の猫は
まんまるおめめをまるくする
仔猫はトボトボ
小さな林の中…




ソラソラ
いつもの散歩道
熱視線から逃げ出し
今からお買い物
お昼は何にしようかな?
優雅に演じてみたり
そんな私は
猫です


トボトボ
トボトボ
仔猫は泣いてばかり
“また死んじゃった…”
いつもの散歩道
うつ向いて良く良く見たなら
毎日毎日…
大小色々
乾いた体が横たわる
毎日毎日…
仔猫はうつ向いて
小さな日陰を
トボトボ
トボトボ


いつもの朝
いつもの早起き
いつもの公園
いつもの椅子
いつもの気分
いつもの私は
猫です


泣いてばかりの仔猫は
今日死にました…
悲しみに暗れて
車に気付かず
今日死にました…
バイバイ
名もない仔猫
バイバイ
優しい仔猫
バイバイ…
顔を洗って
いつもの散歩道
ソロソロ
いつもの様に
上を向いて…


夜は“おやすみ”
雲は黄金のドレスに包まれ
南風と陽気にダンス
なぜだろ
世界はこんなに美しいのに…


自由詩 ある仔猫の一生 Copyright 三之森寛容 2009-03-24 21:37:14
notebook Home