産声
たちばなまこと

そうゆうんじゃない
肌に頬を押しあてて
脈打つ血の
ほんとうの色が浮き出すのを待ちながら
したい理由をききたい
耳もとで
吐く息にまぎれ込ませて
「どうして…?」とききたい
衝動にもゆえんがあるはずなんだ
その 手首を押さえつけるちからにも

嘘でも
絶対的な嘘を
愛とか好きとか
ぶつけるたびに言ってほしい
顔に蒔かれるのは嫌い
ひとりになるから
くちびるも産道も内蔵への入り口
ヒトのなかのけものが
嘆くように叫ぶように呼ぶ
ひとりにしないで
つながっていて
火だねをください

たとえばふたり
結婚初夜
ペールイエローの月明かりのもと
それは命を呼ぶ儀式で
私たちもこうやってくるおしく祈りながら多細胞になったと
ふたり
隙間なくあたたかいかたまりになれるのならすてきなことで
あなたたちのそれを教えて欲しいと思う
誰かに明かさないのは
密室や夜に隠れるのは
「どうして…?」

 赤んぼうのにおい
 できたての細胞のいいにおい
 ふたりが混ざったときの
 しめったはだかのにおいは似ていて
 水に一滴色をたらした
 けもののにおい
 赤んぼうの父と母だけが知るにおい

 つながるっていいね
 いままでこんなしあわせ
 しらなかったよ
 しらなかったよ

衝動にもゆえんがあるはずなんだ
その 手首を押さえつけるちからにも
私は愛する人の肌にくちびるを押しあて表皮をひらき
本能を盗む
私のなかのあなたたちが
いつまでも産声をあげつづける


自由詩 産声 Copyright たちばなまこと 2009-03-24 07:18:06
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