psyche Ⅳ〜Ⅵ
夏嶋 真子
 
? 蝶
 
シ/モクレンの一秒は
蝶の魂と同じ
 
奇妙に歪んだ美醜の契りが
爪先で蠢いて翅にかわる
 
 
うす紫がゆっくりと溶け出し
バスタブの温度を下げる
 
浴室で眠る蝶の夢は
完全に対称な生と死の同調
 
裸体の熱は無受精卵を
春の空へ産み落とし
 
 
飛翔から生まれた風が
触覚をたたく曖昧さで
はるか遠くの春雷を鳴らす
 
 
 
?母
 
夢の外はうららかに流れる
 
 
紫木蓮の蕾は
この詩の全てを包んで母になり
 
 
ふたたび揺りかごを得た蝶は 
春の夢を見る
 
 
 
不完全な肉体が
悲愴と失望に絡まり
樹液のまにまに漂う
 
 
胎児になった蝶は
 
 
この欠落が
 
 
命だと知る
 
 
 
 
あらゆる感情を
空にはなち
母の片隅に果てた
 
 
 
 
 
 
? psyche
 
 
夢の外は静止している
 
 
 
 
シ/モクレンのうす紫が空に溶け出し
蝶のへその緒に結ばれると
 
翅は外に向かって透けてゆき
脈打ち始める
 
 
 
 
沈黙する春は
枝に止まったまま
その産声を待つ
 
 
 
再生が押される
 
 
 
雑音の隙間から聞こえるのは
 
 
 
 
胎動
 
 
 
願い
 
 
 
魂