帰る空
こしごえ




ほの暗い
雲のもとでたたずみ
空をつかむ
透けている火影姿のこぶしから 零れる灰が
無風地帯へかえってゆき
つかみとおすこぶしは
遠い声にもほどかれることはなく
    透明なかなしみを失いつづける

うすらさむい空が晴れるのをまっている。まっている
静かに 風みちる静けさで
私は、かなしみをそめる青い空を
たちどまることなく秋りんの降る林をあるきながら

ふたたびとりかえせない彩しきを。
知っているのか
声は照らす
見果てぬ漆黒の宇宙を
私はどこへ?
か細くそよそよとあがる雲が耳をかたむける
予感のほとりで

ある喪失をすくうように、われにかえる
    みちのりむなしい雲路をゆけば
無欲を超越した ところ無数の暗いかどに
空白のよこ顔がひっそりと
うかびあがり 沈黙している

えん岸で
今晩は とあいさつをしても
行実の暮れた法をゆびさすばかり
       じゅうりんされた
           庭に咲く
          血の花が、
        わたしの静脈で
        かおるゆう方。
          しずけさが
          飽和する空
         ろな求心力に
        冴えてくる光神
純銀の血しおが澄みわたる沈静を
脈動の月虹が、ふちもなく無実にひかれ
いつまでもゆびをさされながら

(よこ顔はい
っそうつめたく澄んで白い暗さを
    しんわりとした重さで放っている)

しめった空気を燃やし
しろちろと波紋に揺れる
秘密の火
小さな胸の天幕を焦がす
水曜日を如雨露で石榴石にあげる
歌声を産声とまちがえた中性子が
虹をかける重く燃える秘密でくぼむ

火に滅ぶものもあれば
火に生かされるものもある
火は己に忠実なだけ
そこに罪があるか
灰のみがしる真実
いのちは、火のような魂だ
と水影が、無表情にほほえむ

暗号のけいぞくする
(はじめていたみをおぼえてから
さいごまでこの未完成なきょりをかんじる)
風の亡霊がことばなく、密めいてしまう
    森林はどこまでも深い冷徹な遠さをふくみ
    われわれが、いのちを燃焼させているあいだ
    われわれのしらないところから

私は、この沈黙をまもりとおすためにいま、
来た一本道を蒼蒼しながら、あるいて行かなければ
ならない。無風地帯へかえっていった
灰の記憶が、
空白をそめあげるまで

不朽のつぼみのたいないで
しずまる透明な闇を静止する
下弦のまゆ月冴えかえり
とうのむかしに雨はやみ
雲もしろがね河をながれ
遠い声は灰の記憶をつぶさになぞり
ほほえみあゆみ去るひだまりとなり
ふるさとの土に芽吹き いのる
幽光のまなざし
咲きめぐる一輪を
星雲がつみとり
私を真っすぐに照らしつづける、いとおしい、青い愛しみよ













自由詩 帰る空 Copyright こしごえ 2009-03-23 06:31:32
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