はなればなれに
木屋 亞万
考える
自分と、
自分以外のすべて、の存在だけが
この世の真実だったら
私は孤独に耐えられない
私は怯える、外に敵意がなくとも、内には不安が充満している
亀のように心を出し入れしながら
自分以外の存在に、警戒気味に内側を見せ、外の存在の内側を覗く
自分以外にも自分を自分と思い、自分と同じように、自分と自分以外についての、自分の考えを持つ自分
と出会った
僕らは
はなればなれになって、記憶を喪失した
何かの群れなのかもしれない
と思うようになった
その証拠に僕らには
ひとつへの憧れがある
優しい合体への願望、
大きな輪郭への融和を求める本能
数珠みたいに
いくつもの玉が繋がれば
偉大なひとつになれる
しかし、数珠を作るときには
すべての玉に穴をあけねばならない
かつて玉だった僕は
己を貫通する穴をあけた
一本の糸で繋がるために
しかし数珠は完成しなかった
自分に穴があくことを拒み、
繋がりをごまかした誰かがいたからだ
そいつは恐らく糸を切断し、自分の両脇に糊付けし、涼しい顔をしていた
そこが強度の穴となり、数珠繋ぎはすぐに壊れて
はなればなれに
僕らは胸にぽっかりと
穴があいたままで、何もかも忘れてしまっている
(糸が今どうなっているのか、僕らを繋ぎとめていた糸はどこへ失われたのか
僕らは犯人を見つけ出したのか、そいつを攻撃したのか、それとも逃がしたのか、
仲間はどれくらいいて僕は誰と隣り合っていたのか、誰と踊ったのか、誰と笑ったのか
誰に触れたのか、誰と身体を擦り合わせていたのか、誰の皮膚を口に含んでいたのか
ドライブには行ったのか、同じ煙草や酒を吸ったり飲んだりはしたのか、
舌を出してキスをしたことはあったか、見捨てないでとすがりついたことはあったか
嘘をついたことはなかったか、悪戯はしなかったか、誰も脅さなかったか
今はもうわからない、何も)
坂道を転がり落ちる小さな玉になって
はなればなれになった
みんな生きているか?僕はどうだ?