稲穂のこころ 
服部 剛

チェーン店のカレー屋で 
「グランドマザーカレー」
を食べていた 

自動ドアが開き 
ヘルパーさんに手を引かれた 
お婆さんが店に入り 
隣の席にゆっくり  
腰を下ろした 

「こんなお店は初めてだけど 
 あなたのおかげで新鮮だわ 
 何でも経験してみるもんねぇ・・・」 

誰かにとっては 
とっても小さな幸福も 
お婆さんにとっては 
とっても大きな幸福で 

僕が5分足らずで食べ終えた 
「グランドマザーカレー」を 
お婆さんは、一匙ひとさじずつ 
食器のこすれる音をたて 
ゆっくり口に運んでは 
もぐりもぐりと噛みしめる 

上着をはおり 
ごあいそうを済ませた僕は 
自動ドアの開く手前で立ち止まり 
ふたりの席を、振り返る 

今日の予定を気にして 
携帯電話の画面を見る 
ヘルパーさんの向かいで 
お婆さんは 
無言の稲穂になっていた 








自由詩 稲穂のこころ  Copyright 服部 剛 2009-03-22 08:18:07
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