稲穂のこころ
服部 剛
チェーン店のカレー屋で
「グランドマザーカレー」
を食べていた
自動ドアが開き
ヘルパーさんに手を引かれた
お婆さんが店に入り
隣の席にゆっくり
腰を下ろした
「こんなお店は初めてだけど
あなたのおかげで新鮮だわ
何でも経験してみるもんねぇ・・・」
誰かにとっては
とっても小さな幸福も
お婆さんにとっては
とっても大きな幸福で
僕が5分足らずで食べ終えた
「グランドマザーカレー」を
お婆さんは、一匙ずつ
食器の擦れる音をたて
ゆっくり口に運んでは
もぐりもぐりと噛みしめる
上着をはおり
ごあいそうを済ませた僕は
自動ドアの開く手前で立ち止まり
ふたりの席を、振り返る
今日の予定を気にして
携帯電話の画面を見る
ヘルパーさんの向かいで
お婆さんは
無言の稲穂になっていた