やっと誰も来ない場所に
Giton

 やっと誰も来ない場所にたどり着いた。去年の葉をつけたブリキ柳が、軟い金の粉を吹いている。崩れた石灰岩にカンスゲの穂。

 (君は荷を下ろし、装置を組み立てる)

 ここなら、いくらペンシルを飛ばしても人には当たらない。投げるものと投げられるもの。跳び揚がるものと発射台。推進力はどちらに?

 (風速計を据える君の髪が乱れはためく)

 綿毛のように風任せかね?それにしても、着地点を予めプロットすればエラーになる。着弾海域を国際機関に通報したミサイルではないのだ。
 綿毛ならば、なによりも、実の着いていた花托のメカニズムに注意してほしい。そして、実と綿毛そのものの性質だ。浮遊のまにまに吹きそよぐ空気の及ぼす合力。カオスで近似できるかもしれないな。
 トリガーにもっとこだわってほしい。性急にターゲットを求めないでほしい。求めると、お決まりの月並みだけを皆がつかみとることになり、蜜を集め損ねた働き蜂とぼくらは、稈屑を満載したトラクターを見送ることになるんだぜ。

 (里はもう麦秋)

 雲が光ったな。はやく実験を済まそうじゃないか。ぐずぐずしていると、霧にとりまかれてしまう。

 (一瞬の火柱。垂直に揚がるペンシル)

 あっちの森の際で、驚いた猿の群れが逃げて行く。


自由詩 やっと誰も来ない場所に Copyright Giton 2009-03-22 01:15:00
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