雨をスケッチする
コーリャ


無限小と無限大とよばれる番いがちょうちょを啄ばんでいる
雨上がりはまだ地平のむこうにひそんでいる
くちばしにこびりついた燐粉が死んでしまった!を水煙で香るが
雨だれの音楽葬でさようならする
16ビートでさようなら

ディスプレイされる剥製のコーラに
くぎ付けられたストローは
かつて真白で
真直ぐだった
そういった足をした老女は
泥の溜まりを破壊している
ゆらゆらとないがしろにされながら
着地した傘は仰向け
雨水をさえぎるどころか
雨量を加速させる傘下

オナジマイマイの甲殻の渦は
巻き戻した日々の数と等しい
あまり雨天をリフレインすると
触覚のさきから樹木になってしまうので
雨季いがいは外国になりをひそめている

電線をつなわたりするのが
さいきん幽霊のあいだではやっている
霧雨に目をこらすと
ショートした電光に照らされた
彼らが墜落したりする
と猫がおしえてくれた
銀色の目をぎらぎら光らせて

画材屋の常連客で
白の絵の具をガロン単位で購入するものがいて
なぜそんなに白色がご入り用ですかとたずねると
雨をスケッチしていますのでと答えた
雨は白いですかとたずねると
黙ってうつむいてしまう
雨水をそっとパレットにうつして
画架にかけた白布にぶちまける
灰色の筋を残したのは
あるいは
もっとも率直であろうとすれば
感情で
それを修正するために白をつかう
虹はどうですか?とたずねると
そんなものはみたことがないと答えた


自由詩 雨をスケッチする Copyright コーリャ 2009-03-21 23:26:37
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