朝帰り
百瀬朝子
遊び明かした夜も終わり
よそよそしい朝の光が
地上を照らしている
空気はまだひんやりと
あたしの火照った心を冷ましていく
刹那、
解散という空虚が胸をよぎる
そんな夜明けを嘆いた
足並みを駅にそろえて
いそぐことなく行進
あたしたち、自由を手にしたソルジャー
指揮する上官は葬った
もう、誰にも咎められることはないから
ゆっくり帰還しよう
雲が太陽の下を横切った
地上に影ができた
*
四年ぶりの帰還は
未来へつづく道のりの途中
帰る家があるあたたかさに
不自由さを感じながら
その煩わしさに再び
出陣を決意するのだろうか
父が怒った
母が泣いた
あたしは旅の支度をしている
*
上空で風が吹く
よそよそしい朝の光が再び
気だるい仲間を照らしだす
始発の汽車にゆられてる
夜を明かして帰還する人々と
朝を迎えて出陣する人々が
ぎゅうぎゅうの箱の中で混ざり合う
いずれの人々も
眠気を帯びた同じような顔つきで
ゆられてる
汽車の速度で解散の時が近づく
次の駅に停まればあたしたち
この汽車を降りて
自分たちの足で
レールのない道を
歩き出さなくてはならない
道は分かれた
二度と会うことはないだろう
そんな寂しいことを
認めたくないあたしは
さよならが言えない
またね、だなんて白々しいセリフも
咽喉の奥につっかえたまま
飲み下された
無言の別れに後悔が糸を引く
混ざり合った唾液のように
いやらしく伸びる糸を
あたしは断ち切れない
汽車はあたしを残して走り出す
あたしは別の汽車に乗り込んで
あの汽車を追いかけたい
ああ、
なのに、レールがない!
ああ、そうだった
あたしは自分の足で
歩き出す決意を
しなければならないのだった
心の中でさよならをつぶやいた
あらゆるものを断ち切ろう
去ってゆく
あらゆるものを見送った
ぬかるみに轍が残った
ぬかるみが、轍が、乾いていく
その軌道をなぞってしまわぬように
あたしは背を向けた