鉄路
しべ

トンネルは夜だって明るいんだ

今も人差し指の冷たい腹、小指の爪
それだけで優しく窓を見つめてる
溢れたトラスの風切る姿が
薄暗い雑音に変わり
蕩々と水田へ軋んだ碁盤も
景色から剥がれ耳もとまで迫る

コトンと月は細波に
群雲は輪っかの睡蓮に

もう
はらはらと、星になれ

汽笛は素直に
針金細工の跨線橋だとか
遮断機の色ひとつも
丘の彼方に転がして

機関車で睡魔のように僕等を誘う


煙が

満天に十字を架け
彗星浮かぶ南の空と稜線の北
黒く穿たれた裾野にぞくりと迫る

遠く門火の橙
燃え滓は揺らいで
駅の軌跡は弓なりに
架線の譜面
遠くの尾灯がちらちら、と
凍りついた水
窓際の埃に重なる

囁きながら
ダイスのチョコを少年が寄越す
品のいい黒い肌で覗き込んで
丸い瞳をくるくるさせた

26時24分
窓際の短針が失速した
心音と線路が停止線へと傾く

次は荒れた泥炭の海
乳白色の駅
壊れたタブレットの交換で
12分の停車だと言う


自由詩 鉄路 Copyright しべ 2009-03-18 22:32:46
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