厚顔無恥の日
木屋 亞万

よく晴れた日の午後
麗らかな春の陽射しの中を
黄色い砂が飛んでいく
連綿と空を漂う砂の靄を
裂くように降る大粒の顔面
頬の脂肪を震わせて叫ぶ男の声

行き交う人の群れから
少女が一人顔をあげて
もうそんな季節ねと呟いた
空気中の窒素を引き裂く悲鳴と
若い女の顔面も降る
長い髪が風に逆立ち、海藻のよう

温かさに眠くなる昼下がりに
いくつもの断末魔の叫び
滴り落ちるたくさんの涙と
同心円上に広がる血溜まり
人間の脂肪はよく滑るので
かかとの高い靴を履いた女がよく転ぶ

植え込みに落ちた無傷の顔面は
子どもの好奇心と遊びの餌食になる
私がこれまでに見た最も残酷な遊びは
上唇を鼻の根元まで剥きあげる
というもので、偶然残骸を目にした

春の平穏さから人々を守るために
たくさんの顔面が今日も至る所で
ばらまかれている、しかし大人は
誰ひとり足を緩めない
小さな大人たちはみな学校へ行く

黄砂の舞い
一億の顔面が降る中を
絶滅危惧種のこども達が
遊び心で顔を狩る、春


自由詩 厚顔無恥の日 Copyright 木屋 亞万 2009-03-18 14:55:18
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