空ににげる
コーリャ


浜辺から逃げたあの日に、あわてておとしたサンダルが一隻、いま、海にこぎだす、チベットに高跳びするのだと、空と海が双子みたいにみえたので、飛行できる気がしていた午後。

公園のゾウの遊戯具のした、かくれんぼする相手は夕暮れ、7時なればきまって逃げ切ったが、口笛ばかりがうまくなっていった、文集で将来なりたいものは「口笛のソリスト、あるいはとっても素早い四足獣、または魚」だと言ったことがある、そのころは鳥を憎んでいた。

チベットにいったことがある、船と電車にのっていった、もちろん船と電車は空を飛ばなかった、チベットの雲は羊みたいにひとなつっこくて、うんと背の高いひとは雲にうまってしまっていた。

空 が青くて青くて青くて青くて青い日がある、もう赤いと表現してしまいそうなくらい青いときがある、そんな日の夕暮れにはきまって公園にいった、かくれんぼ している子供をみつけてあげるためだ、どこからか口笛がきこえて、ゾウの遊戯具の下には、夕暮れ色に褪せたスニーカーが片方だけ、すてられている。

飛行機がキリトリ線をいれていくさまをみつめると、サンダルのことをおもいだす、また流れ星を発見するとサンダルのために祈る、いまごろ0.001光秒とかの速さでもって、ちがう星系でしっそうしているはずだから。

逮捕状をつきつけられて、もう逃げ場はないぞと言われたとき、「空があるさ」とつぶやいてから夢がさめる、まるまったティッシュの錯乱する暗い部屋をクロールして電燈をつける、こんなのが空かと笑ってしまう。


自由詩 空ににげる Copyright コーリャ 2009-03-17 23:45:42
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