待ち惚け
琥霙ふうり

 
校庭に伸びる影に背中を向けて
私の影は抜けていく
年老いた校門は歯をなくしてしまったのか
カラカラとは、もう聞こえない
 
(赤錆の、涙。手を這わす。記憶の跡、に。ほろ、り。)
 
見飽きたはず/の/いつもと同じ帰り道/なのに/迷子になってしまった
 
軒並みがひたすら続く
コンクリートを鳴らす音も
だんまりかえったまま
街灯だけがちかちか
夜を待ちわび過ぎて
呆けてしまっている
 
風が私を嫌って
まるで真空パックに閉じ込められたみたいに
簡単なはずの呼吸も思い出せない
 
(揺れながら、さまよう。手持ち無沙汰な、私。の、左手。)
 
 
どこを探しても
どこに行っても
とことこと、靴ずれを起こし
踵と爪先がいがみあうだけ
 
 
ふいに、低体温症間近の私が
湯たんぽの君を恋しがる
それがレトルトな思い出でも構わない
自分の家すら分からなくなった
今の私に君は、必要不可欠で
振り返ればまだ校舎が陰っていく最中で
街灯の下で、ちかちかした眼を
こすっている
 
いずれ、影すらも私を置き去りにして
友達と呼べるのは呆けた街灯と
校門のおじいちゃんだけになってしまう
言葉も交わせぬまま
私達は景色の一部として風化していくのかな
 
ぽつ、り静寂が降る
迷子のまま
名も知らぬ夜に私は溶け込んで
きっと、きっと
朝が来るまで待ち続けてる
 
朝が来たら
昼も、また夜も越えて
私が呆けておじいちゃんになっても
ずっと、ずっと
 
待っているよ。


自由詩 待ち惚け Copyright 琥霙ふうり 2009-03-17 09:02:03
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