知らない大人
小川 葉

 
始発のバスに乗ると
一人でどうしたの
と尋ねるので
怪我をして病院に通ってることを
運転手さんに話した

発車時間が近づくと
大人がたくさん
バスに乗り込んできた

知らない大人と
会話したのは
その時が
はじめてのことだった

バスを降りる時
運転手さんが
ありがとうと言って
微笑んでいた

知らない大人と会話したのが
はじめてだったから
家にも近所にも
知ってる大人ばかりであることに
はじめて気づいた

運転手さんの家にも
知ってる子供がいるのかな

自分の子供なのに
まだ知らないみたいに
生まれたばかりの赤ちゃんを
見ているのかな

いつかその赤ちゃんも
僕くらいの子供になるんだ
運転手さんはそう思って
僕にありがとうを
言ったのかもしれない

今、僕には
四歳の息子がいる

少し大きな
知らない子供を見ていると
息子もこんなふうになるのかなと
ふと立ち止まって
話しかけてみたくなる時がある

知らない大人に
子供みたいな一面を見つけたなら
昔はこうだったんだろうな
と息子を見て
思い出してみたい時がある

僕はあの時
本当は
誰にも話してないけれど
将来バスの運転手さんになりたいと
心に決めていた
そんな子供でした
 


自由詩 知らない大人 Copyright 小川 葉 2009-03-16 22:41:38
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