春を密輸
しろいろ
ぼくたちは春を起点に遠ざかる公転軌道を失った星
君という病を喪いかたかたと瘧(おこり)のように震える柱
便箋を一枚一枚丁寧に破ればただの紙の山です
カポーティか太宰を常備薬として制服姿で密輸する春
助手席はずっと空席(頭上注意!)歩道橋から降ってくる影
二十余年全身麻酔の夢のなか幕引きのための符号はどこだ?
この手にはきみのぬくもり やわらかな卵のちいさくふるえるような
クレパスで大きく円を描いてもすこしはみだす あのころのそら
恋人は屋根からダイブするための飛行経路を確認中です
1アウト1塁2塁の自由度で采配権だけぼくらになかった
ポップアップウィンドウのような後悔につきまとわれたら青春開始
刃のないカッターナイフで自慰をして きもちい、いたいの もはやプロ級
スコープを覗くスコープを覗くスコープを覗いても 蟻のような僕
目をつぶれば潮の流れがわかるだろう 町を抜け出すための流れが
音のない砂かけあそびで二人きり ぜんぶがぜんぶがぜんぶ、 波音