灰の雨降る公園で
木屋 亞万

雨が降る
夜の闇に隠れている雲が
強い雨風を吐き出して上空を占拠する

最近の若者は重力に弱いと
ベンチに座り込む私に老人は言う
春は特に重いんですよと私は答えた

老人は軸の曲がった傘をくれた
私はその傘で地面を掘る
傘の先でえぐるように

川を作るつもりだった
雨水がベンチの下まで流れるような川
できれば暗い黒い川底の

最近の傘は重圧に弱いのだと
傘の取っ手は愚痴をこぼす
軸はへそをさらに曲げる
雨は降り続く

雷が鳴る
毛髪と衣服は身体に密着する
最近の土砂は灰色だ
最近の土砂降りも灰色で
最近のおしゃぶりも灰色
最近のおしゃべりは灰
雷が鳴る
雨脚は強くなる
灰色は濃くなる
冷たい、が黒ではない

灰色だ
何を見ても灰色
最近に見たものは灰色だ
すべて、なにもかも
聞いたものも
食べたものも
ぶつかったものも
話しかけたものも
風景も人も精液もミドリムシも
ありとあらゆるものが灰色

薄く、無味で、無意味
鬱血した鬱屈の鬱積
こんにゃくコンクリート胡麻豆腐
透けず、染まらず、輝かず、灰色
バケツが一生分ひっくり返ったくらいの雨
まもなく二章に突入する雨
水の粒は苺よりも大きくて灰色

最近の若者の笑顔は灰色なんです、と
泥まみれ水浸しの私は言う

老人は答える
うれしいときだけでなく
悲しいときも
空虚なときにも人は笑う
空き箱が鳴るように
鈴の音が響くように

道理で最近の若者は引力に弱いわけだ
と、彼は一人で納得して笑った
皺がひび割れるように顔を崩し
黒い笑顔がこぼれ出た

灰色の川が濡らすベンチに腰掛け
仰いだ空には月の灰
そういえば夜空は暗い黒い闇


自由詩 灰の雨降る公園で Copyright 木屋 亞万 2009-03-15 12:13:42
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