タイヤ樹と春
まどろむ海月
淡い緑の中で
逆三角形の水色が
樹を見上げると
サクラではなく
古タイヤがいっぱい
なっているのだった
柔らかなまるいピンクが
身体を歪ませながら
通りかかったので
あれはどうしたことかと聞くと
ああ あれね
平和憲法のおかげで
働き者の国民が一億総中流の社会を作り上げたのに
君が代好きの右翼が 戦前の天皇制を美化し
教育基本法を強行採決で改悪し
格差社会まで復活させたけど
選挙で大敗確実となり
あの樹もやっとまともな春がきそうだと喜んでいたのよ
ところがまた雲いきが怪しくなってきたものだから
すっかりふてくされて狂い咲きした結果があれなのよ
アンタがそんなにサクラんしてどうすんのよ
って言ってあげたんだけどね もうすっかり
キがちがっちゃったみたいね
ねえ そんなことより 私たち二人で
もっと春めいたことしてみない
なんて 身体をすり寄せて言われてもなあ と
逆三角形は すっかり青くなって きょろきょろしている
まるいのも言ったそばから全身赤くなってうつむいている
青が 赤の体内に 精を放つと
紫色の星や花がいっぱい出来て
明け方の空に流れ出した
雲の白い起伏は
幸せだったあの頃に似ている
あまく温かいものを身体に入れても
想いはまともにならない
『春は残酷な季節 … 』
鳥はさえずりながら飛び立ったが
閉ざされた抽象の扉の向こうには
泣き崩れた具象の日々が