桃色孵卵
北街かな

おきざりの波打際で膝を強く強く抱くと
両の乳房が ぱんと張って
ふとももに弾かれて 憂鬱に揺れた

一方的な愛情ほど与えすぎても尽きないよ
あたためて触れてひどく突きつけて
かき鳴らす歌を変えても
あたたまらないんだよ?

ピンクのパールが頬を辿って
浜辺にポトと くぼんで はまる
拾い集めても足しにもならない
あわあわに さらわれてゆくわ

貧弱な母性は少年の鬱屈を受精して
報われぬ恋愛顛末を堕胎してしまったけど
月末には変わらず血は流れている
安心しなきゃいけない
忘れなくてはならないの

海の家は氷点下に潰されかかり
堅く、かたむいて、かじかんでいる
潮の沁みた霜焼けに息を吐き
おきざりの独りきり
信頼と情に満ちていたはずの
天体観測の続きを

まちがいだらけの君との影が銀河になってしろく降る
泡が散らばり
星座を模して
凍りつかぬよう、またたきをやめない

生まれもしない君との時間の結実を
胎内であたため続けているの
かかえた素肌は真冬に埋もれ
夏の日々に続いていた熱い砂に足はつかない
心からの発言ほど
きみの胸には届かないんだよ


自由詩 桃色孵卵 Copyright 北街かな 2009-03-13 22:59:55
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