オー・マイ・ドクター
百瀬朝子

ねえ ドクター、聞いてほしいの
あたしの悩みはひとつじゃない
たくさんあるから どこかつらいの

ハロー ドクター、聞いてほしいの
あたしの心の一番近くにいる友達が
遠くへ行ってしまう
それだけのことなのに 胸が
とても苦しいの

ディア ドクター、聞いてほしいの
あたしだけ、
世界中から仲間はずれにされたみたい
誰にも必要とされていないみたいで
目の前が真っ暗なの
ただひとつ、
ドクターだけが光って見える
いつまでも どこまでも
ドクターとつながっていたい
この世界とあたしがつながっていることを
証明させたいの

ああ ドクター、あなたも行ってしまうのね
  まだ、わずかな寒さが残る春の異動
  あたしは呆然と聞き入れるだけ
「行かないで、」
そんな単純な一言も言えないあたしは
もはや誰一人、引き止める権利を放棄していた
あたしはこの手が憎たらしい
(行かないで、)
本当の想いに蓋をしたこの手が忌まわしいの

さよなら ドクター、名残惜しいのはあたしだけ?
閉じた蓋がカタカタ騒ぐの
蓋の下で暴れる想いに顔が歪む
どうか中身が溢れ出てきませんように
あたしはにじんだ涙を必死にこらえてる

  例えば、この涙が流れたって
      ドクターは去っていく
      涙の行方に左右されない

どうせ何も変わらないのならば
あたしは絶対に
この涙をこらえてやらねばならない
泣かないあたしに少しでも
ドクターが寂しがればいい

溢れる想いを、とどめておく無意味さに
溢れる想いを、溢れるがまま散らかす意味を覚える
意地っ張りなあたしは閉じてゆく
オー、マイ ドクター


自由詩 オー・マイ・ドクター Copyright 百瀬朝子 2009-03-13 21:51:05
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