死におびえるヴィジョン
たちばなまこと
私は死におびえている
新宿アルコット 地下三階へ降りる階段で
伊勢丹ガールズのレストルームで
「緊急地震速報が流れたら伏せるなどの安全な体制をとってください」と
女の人の青白い声でアナウンスされる
私は蛇のように
隙間からだって逃げられる
あの子
お午睡中に地震がきて
目を閉じたままになってしまったらと
ヴィジョンが
具象画を描くように
私はあの子を両手に抱いて嗚咽をもらしながら
傷ついた誰かの子を助けに走れるのか
あの子の
パパが病気を告げられたときにも
ヴィジョンが
私は大きなおなかを支えながら黒い服を着て
これから何処へゆけばいいとサンドベージュの風に吹かれていた
だけど彼はあの子を抱いて
たかいたかいをして
ご飯を食べさせて
花の名まえを教えて
死んでいった
私のヴィジョンなんて
死んでしまえばいいのにと
いつもいつも思う
私は私の思う詩人だからだ
余けいなことと伏線ばかりをヴィジョンにして
人知れず内臓を混ぜくりかえしている
私は死におびえながら
生きること 生むこと 新しいこと 進むことを願っている
そんな夕方は明日からの仕事を抱えて
あの子の
待つ駅へ!待つ駅へ!とこころがふくらんでゆく
ホームの階段近くに停まる車両
ドアの前で拳を握る
子どもたちの園(その)があるビルの
階段を駆け上りインターホンを押す
笑みをこぼしながら胸にダイブするすがたを
ぎゅぎゅーっと
抱きしめる
私のヴィジョンよ
死んでしまえ 死んでしまえ 死んでしまえと