瑞々しい嘘
小川 葉
消しゴムで消してしまうと
虹が出来てしまうから
それ以上描けなかった
あなたの顔は
スケッチブックの上で
雨後のように濡れていて
小さな水溜りにある黒子は
ゆらゆら揺れながら
嘘と言う文字に似ていた
似顔絵はあなたに似てなかった
あの日のあなたではなかった
わたしの知らないあなた
わたしの知りたくないあなたが
傘をさして雨上がりの虹に向かって
歩いていった
一度だけ振り向いた気がした
傘の隙間からにこりと笑う
まるで嘘みたいな顔で
黒子はきれいに消えていた
それが真実だった