瑞々しい嘘
木屋 亞万

張り詰めたラップを着て
新しいキャベツが店頭に
テカテカと並んでいる

両手に乗せて天秤になるひと時に
良いキャベツは感覚で選ばれる

冷蔵庫で
一枚ずつ身包みを剥がされるのを待つ間に
芯は見えないところで腐っていく
茶に変色し悪臭の液を垂らす

野菜室、キャベツの横で
「花は咲いた途端に嘘になるんだ」と大根は言う
立派な葉付き大根だった彼は毛髪を刈り取られ、
足を切断されている

「戦争に行く奴はみんな丸坊主さ」人参は笑う
三本並んで立っていた人参も、残すところ彼ひとり
どことなく痩せてきたような気がする
彼の芯から青い髭が生えてきている

春なのに冷蔵庫は冷たい
野菜室は狭い、空気も悪い
何のためにそこに入れられるのか、知るものはいない
誰も彼も自分のことだけ、わからない



花が咲いたら
花びらが知覚されたら、美しさはそこになかったと、誰もが思う
匂いで誤魔化しても、色で錯覚させても、すぐに気付かれる
どんなに新鮮な嘘でも、それは偽りである、虚ろなのだ

蕾の
あるいは芽の
誰にも見られていない
まだ花でない花が身を寄せ合う中に、美しさは込められる
未来、あるいは期待、想像、希望、予感、それが美しさである


花瓶、フォーク、野菜炒め

戦争は、頭から咲いた途端に、嘘に、なる

君が死んだらその先は、すべて偽りである
そう思ってもらって構わない


自由詩 瑞々しい嘘 Copyright 木屋 亞万 2009-03-11 23:35:36
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