修羅を読む(6)
Giton
ナモ サダルマプフンダリカサ スートラ
さまよふ
啓示にみちたサガレン
☆
緑金の葉脈すかす 落日に
やなぎらん 光の点綴
☆
青びかるツンドラ遠く
樺まばら
空気は暮れて 甘い実醸す
☆
山影の玲瓏のなか
とどまつの
削られ残る高い梢
☆
極北の落日の時
燃えあがる雲の天蓋
しづむ海蒼
☆
琥珀細工
蜂器械の焼け野原
抛物線は さびしい未知へ
☆
風吹けば
人は居ぬのに話し声
遠くで響く 山の咳ばらひ
☆
真昼の散乱のしたで
岩頸は
時間のないころのゆめをみる
☆
お日さまは白い火を焚き
雪は燃え
シベリヤの天末 風は截る
☆
青じろい よあけの星座
長い影
凍えた泥に オルゴールの音
☆
くだもののにほひにみちた薄明穹
黒白鳥の むな毛むれとぶ
☆
まだ暗い
靄の川辺を来る人は
木だちや銀のアトムに溶ける
☆
冥界に運ぶ舟形
蒼鉛の空に岩頸
椀を刺す
松倉山と五間森
暗い悪魔をまへにして
何べんの恋の償ひか
すきとほつた風景に
なつかしささへ 湧きあがり
おまへのくにへ 逝かうと思つた
(反歌)
薄明は過透明な甘い果実
人を溶かして生命うばひ去る