肥満譜
狸亭

時代遅れの政治家並に肥満して
申し分ない冷暖房付の部屋に
横たわり 詩をつくるその男の 別して
濁った目と憂鬱な顔こそ 思うに

現代詩そのもののありようとは言える。
ありふれた喫茶店の 薄暗がりでは
文科学生たちの議論が湧きかえる。
「イリュミナシオンは錯乱の天の河」

「いやあれは醒めたる天才の見たものだ」
「わからぬ奴は唯単にボンクラなのさ」
肥満した男の耳に聴こえるコーダ。
苦い記憶がフーガのように鳴り交差。

虚無で膨れた風船のような詩人
偽善者に似た男には 生気が無い
肉体が次第に肥え太って 世塵
に塗れてしまっては 引っ込みがつかない。

恋にも 詩にも 酒にも宗教にも
酔えない 俗物の 唯 肥満した男。
頭に描くものと言えば 何分にも
取り留めない妄想ばかり湧く 大過去。

詩の女神に見放されてからというもの
見上げても空には重い雲が垂れ込め
大地は荒れて草も木も無い 廃園の
そこにあるのは肥満した顔 虚ろな目

肥満した手足 肥満した腹 肥満譜。
巨大な肥満になると 新聞記事も
ラジオの声も テレビ画像も 皆オフ
そこを通り抜けられない まさに馬鹿芋。

あたり一面スモッグにうっすら汚れ
悲しみに覆われて 何一つ見えない。
この救いようもない懶惰のフィナーレ
治療法と言えば 唯一つ請合い

果樹園に忍び込み 純粋無垢の
ポエジーの木を探し出し 樹液を抜く。
静かに 辛抱強く 一滴ずつ この
肥満の芯に注射せよ 奥深く。 





自由詩 肥満譜 Copyright 狸亭 2003-09-22 09:44:14
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