ヒステリカル-ロジック-02【パラダイス・マシンの電池】
北街かな

空に最も近いセラミックス・ビルディングが傾げたのは
数百年前のことだったでしょうか
後文明再開発機構の一環として補修工事も施工されたのに
当然のごとく頓挫して
それが何十年前のことだったのでしょうか
ゆっくり崩れてゆく王冠状の頭頂部から
大量の鳥がこぼれて、
山脈の向こうに羽ばたいてゆきます

それは視界を覆うほどの群れでして
鳥のかたまりの奥では、虹色電燈が何百万個も爆発し
見上げる私の手首までもじりじり熱く、焼けるようです

ビルディングの中には
楽園のための正しい電池が嵌められていて
それらは決して天地を逆にすることはありませんでした
外壁と構造の破片がばらばらと空をめぐるのを
みんな悲しそうに見上げていました

…あの電池には
みんなの確信が詰まっていた
どこまでも高く、遠いところまで
その先に暗黒の無限があると知り、それでも
進んでゆけると、着実に

ビルディングのてっぺんには幸福があると聞いて育ちました
手を伸ばして背伸びをすれば
みんな、幸せな顔をして振り返るものでした

ビルの高さとその電位差が、夢で、現実でした
あなたとはじめて夜を過ごしたのも
嵐の夜の過電圧で、ながい闇が巡ってきたさむい春だった

はばたくものは空を覆い、その数はぐんぐん増えてゆくのです
じきに、あなたの呼吸は細くなり、発言はちぐはぐになり
私を指差して実は好きじゃなかったとか言い出すのです

泣いても始まりませんが
鳥たちは鳴いています
オー ボエー クー ロロロロロ… 響いてきます
耳を失うかと思いました
あなたは自分の首を絞めていたので、困ってしまいました

白い鳥は、きれいだとおもいました。
今までずっと電池の中で羽ばたき続けていたのでしょう
ほんとうに気分がよさそうに、羽をおもいきり伸ばして飛ぶのです
彼らが、楽園を幸福にしていた正義なのだと、
我々が気づいたときには、きっともう遅かったのです。


自由詩 ヒステリカル-ロジック-02【パラダイス・マシンの電池】 Copyright 北街かな 2009-03-10 00:23:51
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