冷たい戦争
遊佐



 *
世間は三連休で、海へと続く国道は、何処もかしこも車が溢れていて、どんなに急いでみても渋滞に阻まれ君の元に上手く辿り着けない
募る苛立ちは煙草の煙となって空に溶け込んで行き、延びて行く車の列と増えて行く吸い殻の山は、溜め息の数ばかり増やして行く

ふと見上げれば、
空は快晴
各々のバカンスが何処までも広がって行くかの様に、様々な青を抱いて描かれた休日

こんな日にさえも、
僕は都会を丸ごと移したような渋滞の真ん中に、無駄な時間費やして、また人生棒に振るんだなと苦笑いを噛み締める

 *
気を紛らわそうとつけたラジオのFM放送は乾いた声で
他国の内戦を鮮明な声で無機質に伝える
ふうん、そうなんだと足りない頭で軽く解釈しながら、バカンス色の空の隙間に色の無いフィルムを回す。
実感の無い恐怖と、関わりの無い悲劇は空回りして青空の彼方に飛んで行く、

━泣き叫ぶ子供達の表 情と声。
 銃弾をかいくぐり逃 げ惑う人々の怒りと 悲しみ。
 瓦礫の下に埋もれ、 最早過去になってし まった生活の跡。
 全てを見下ろす青い 空と、優しさの無い そよ風…━


巻き戻せないフィルムは僕の手を離れ、遥か上空へと舞い上がり、長く長く伸びて消えた。

誰かが尊い命を落として行くこの瞬間にさえ、休日は両手を広げて都会からの難民達を優しく誘う
僕は渋滞の中、彼方迄澄んだ青空見上げて溜め息を吐く、
早く君に逢いたい、と。

 *
また、
新たな悲劇が何処かの国で生まれても、この国じゃ誰もそれを熱くは語らない
冷めたスープを飲まされた時のように、感謝の心を忘れ、
平和を粗末に扱い、他人の悪口ばかりを並べたて、
だからスープは熱くなきゃいけないんだなんて知ったかぶりをする奴等で溢れてる
満たされない空腹を抱える人々の想いも知らずに死体の数だけ読み上げて、責任をなすり合い素知らぬ顔でのうのうと札束抱える何処かの国の首謀者達を嘲笑いながら
(見上げる空の色が同じであれば、同じ風景が広がるというのだろうか…)

 *
渋滞の抜け道探し、青空見上げて溜め息を吐く
辿り着けない苛立ちと手を伸ばしても届かない空の高さに、
声すらも届かない遠すぎる悲劇の重さに、
遣り切れない苛立ちを感じながら


僕は…
青空の下、
渋滞の中。





自由詩 冷たい戦争 Copyright 遊佐 2009-03-09 13:51:30
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