朝の砂時計
楽恵

誕生日の朝に
君から贈られたプレゼントは 
手のひらに乗るほど小さな
砂時計だった
君は透き通った瞳を向けて
僕にこう告げた

僕はこれから眠ることになる
僕は僕の夢のなかで 
タイムマシンに乗って
ブラックホールの向こう側へ
旅をしなくてはならない
だから君は僕の代わりに
この砂時計を回転させて
世界の時間を計らなければならない
ここから先は君が僕の代わりに
君の生命の刻限が 
僕らの永遠の若さへの信仰が
失われていくのを 
砂のなかで毎日見つづけることになる
僕が僕の夢のなかで旅をつづけるように

それから僕は今日まで
硝子のなかの小さな砂丘が
すやすやと小さな音をたてながら
蜂の腰の形をした小さな管に
砂粒を落下させる様子を見守ってきた
時計の天と地を休まず創造して

やがて流砂が飛んでくる
僕の足もとが
ずんずん砂に埋もれていく
乾いた風に波紋がいくつも広がる

くりかえし
くりかえし
くりかえし


今朝も僕は君の枕元に立つ
もう膝まで砂に埋もれてしまって
夜の季節を眠る君をみおろし
君のまぶたが開かれるのを待っている
鉱山のように重い君のまぶたが
手のひらの砂漠を目覚めさせる日を

硝子のなかのホワイトホールから
砂がさららと落下する音を聴きながら



自由詩 朝の砂時計 Copyright 楽恵 2009-03-07 13:02:25
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