落日のインフレーション
北街かな

ゆきさる鳩が黄昏を警邏し
3丁目の交友関係を伺っている

瞳をまわし 半導体素子を絶えず組みかえて

友人は望遠レンズを拭いていた
南極大陸の岸辺を日々観察した結果
自律型情報衛星による詩的ビジュアライズの継続試行が
ペンギンたちをパタタとうち喜ばせ
彼らの睡眠を害しているようだから
きのどくで、ぼくまでうっかり、不眠症サ
と ねむたそうだった

ぼくのいる北方都心部は
きれまの無い窪んだ時間帯に久しく隔離されたまま
うだうだ
だらだら、繁栄を保っていた
ソコをそんなに…滞らせて
アレはずっと…まわしっ放しで
馬鹿みたいに上下し続け
似たようなとこばかり押しては ひいて
全てが明白なようでいて
とことんぜんぶが謎だった

居並ぶ蓄光ターミナル電灯電池電柱のさきっぽに
いつもの伝書鳩がとまった
羽根から蛍光黄緑の液がこぼれ
とびあがったのち地面ぎりぎりにおっこち
ばさりと暴れ
風圧に転がり込み
消失しかけたら
到達点へと、
残光を背にして 羽ばたき去ったよ

今度は顕微鏡を覗くことにした友人は
始原菌のカノジョが出来たと微笑んだ
最初の生命はきっとぼくだけのものサと満足げだった

あれよとゆきさる鳩が夕闇を巡回し
路地裏の意志薄弱を記録している
くちばしでぬるい風を切り
回路構成を無限にover-writeして
空間を、その動きを
相転移を、くるめくインフレーションを
いつかのすべての起始を
反転したあの時を
きしきしと鳥らしく
風とともに在りながら
永久記憶を
継続試行している

ぼくらが進化のとき忘れた海のそこのいのちのひみつを
必ず手にするサと友人は水泳を始めた
彼は鳩に豆をやる
幸せの意味合いをぼくは拾う
おとずれた伝書鳩がまた落ちる
珪素製のクチバシで死亡届を咥えたまま横たわる
修理してあげようかと手を伸ばせば
びくんと再起し駅ビルのむこうへ

到達点へ

消失の落日へ

残光をこぼし
羽ばたき去った


自由詩 落日のインフレーション Copyright 北街かな 2009-03-07 01:14:35
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