さびしい幽霊
銀猫

沈丁花の、
高音域の匂いがした

夜半から降り出した雨に
気づくものはなく
ひたひたと地面に染み
羊水となって桜を産む

  きっと
  そこには寂しい幽霊がいる

咲いてしまった菜の花、
埃に霞んだやわやわの土、
そこは花畑ではない
縮れた葉おもてに、
まだ霜は降る

  きっと
  そこには寂しい幽霊がいる

それら
早すぎたかなしみは
彼岸へと流れ着き
時を隔て
半透明の未練たらしく
ゆうれいになるのだ
宿主を探して見つからぬまま
しろさを奪われて
かと言って
逃げもせず
物陰からじっと春を見据える

(透明が近づいてくる)


自由詩 さびしい幽霊 Copyright 銀猫 2009-03-05 22:52:22縦
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