夜額
木立 悟




冬の咽もとに指を寄せ
ふるえのかたちを描いてゆく
あなたは
あなたを描いてゆく


太い流れが細くなるとき
熱は流れに染みとおる
夜が夜を圧そうとするとき
熱は夜の辺をめくる


腹の前で 胸の前で
野卑はやわらかく抱きとめられる
庭も屋根も
待合室のように明るい


音のない鈴
笑みの波
抄いそこねる手を
許している


ひとつの明かりが
響いている
歯車を昇るむらさきを見る
喪失を湧水に明け渡す


光のとなり
扉は歩き
けだものの高み
吐く息は虹


飛べない鳥と霧の袖
水平も地平もないさかいめに
皆ぽつぽつと集いはばたき
雷鳴を浴びながら生きている


たどりつけない橋のつらなり
水の奥の奥にあり
どこまでも渦まく
ひとりの明かり


鏡の前の炭の森
はざまの水と火の拍手
光を持つものは
ただ過ぎるばかり


あやまちがあやまちに落ちてきて
水辺の草を水辺のかたちに燃すだろう
あなたが
あなたを描き終えたとき


短い夢 扉の音
岬を巡るはためきの白
いつ終わるともない唱のほうへ
芽と指とふるえを迎えにゆく



















自由詩 夜額 Copyright 木立 悟 2009-03-05 22:38:40
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