或る宣告を受けて
前澤 薫
雲に鉄塔が浮かび、鷗が舞う。
一面静止画のようでいて、
アスファルトをひと蹴りするごとに
地震のように画面が揺れる。
ドンドンドンと突き上げるような感じ。
今は坂の上で、
くだればそこは公園だ。
なだらかすぎる坂。
私は或る宣告を通知された。
「不能者」
その事実に現実は応えてくれない。
鉄塔はかたく地に居座っていて、
冬の雲は沈着している。
そして、
傾げた雲に黒い鷗が滲む。
時間は刻一刻すぎているなど
思いも及ばない。
公園には広いグラウンドがあって、
若い男の子たちが
サッカーボールひとつ相手にして、
黙々とゲームをしている。
私は
ベンチに座り、足を組み、
タバコをくゆらしながら、
かれらのあざやかな頬を
盗み見ることを忘れなかった。
現実は事実に向き合わない。
私はこんなときでも
自らの性に執着している。
部屋に戻れば、
軽やかな室内楽。
かすかなレモングラスの匂い。
ピーチの香りがするタバコ。
西日がきつくあたり、
パソコンの画面が白く浮かぶ。
文字が白んで、
何が書いてあるのかわからない。
仕方ない。
自らの股間をまさぐることにしよう。
ちりとなった紙片に
「不能者」と書かれた文字がゴミ箱から
みえるのだが。
そんなのお構いなしに。
しーん……
私の裸体が
影となって
部屋一面に投影される。
ああ
わずらわしいのだ。
みにくい。
嫌いな裸体。
嫌い。
私は私を厭うているのだ。
「不能者」
フノウシャ
それらの事実が
いやおうなしに表出したら、
私はもう生きていけないだろう。
ああ
もういい。
私はかれらの裸体を映像に映し出し。
イランイランのアロマを焚いて、
快楽の果実をむさぼり食おうではないか!