鼓動
楽恵
祝祭日のパレード 鼓笛隊の南半球へと向かう隊列
虹色マーチのアコーディオンとリコーダー
目の前に降り注ぐ 赤 紫 白 水色 そして 黄色の 小さな花びらが
小太鼓と鉄琴が打ち鳴らす呼吸の隙間を見つけて 蒼空を埋めてゆく
ダムダムダムと 鼓膜に弾き出されたリズム
鼓舞の群れへと投げ出されてゆく数え切れない肢体
エーゲ海のミロス島で発見された 大理石の彫像の白い右腕に
私は左手首を掴まれて
静かなる動脈に 女神が点す花火の 流れる旋律を感じる
深海に横たわる死のような眠りから
前世にみた夢の金縛りは解かれて
目覚めの河に賽は投げられた
ドクドクドクと 骨まで拍を刻む胎動を感じる
疾走する自転車の 細工された車輪の下で
溜息の激流が少女の薬指から掻っ攫っていった魔法の指輪は
地底探検のために掘り込まれた井戸へと滑り落ちて
世界を支配する月桂樹の王冠のために 地下水を銀色に刺繍している
ドキドキ ドキドキと
乙女心の予兆は 春の訪れとともに来る
砂風のハートビート
ドラムとエレクトリックなベースそしてギター
ロックンロールは悪魔の音楽 走り続けるあいだは息もつかない
深夜でも 明け方でさえ
大地の生んだ青銅製の太鼓は 古代よりも氷河期よりも ときめいて
指先も 首筋も 踵も ずっと
地平線の彼方から耳元まで
歩みを止めない 熱い動悸を感じている