猫の町
石瀬琳々
御機嫌いかが、と
埃っぽい風が吹く
どの窓にも猫が一匹いて
ぐりぐりした目玉でこちらを見ている
しっぽをくゆらすもの
ひげをぴんと張ったもの
前足を行儀よく並べて
あるいはつま先立ちになったまま
*
通りを曲がると細い路地があって
その先に金物屋がある
なべとやかんに囲まれて猫が一匹
うたた寝している (そんな夢を見る)
ストーヴのやかんはシュウシュウいって
なのに 店には誰もいない
その大きなぶち猫だけが主人であるように
片目をあけて こっちを見た昼時
*
足もとをかすめて逃げていった影
路地を消える黒猫
あれは壁に塗り込められたまぼろし
それとも美人絵の白い指が抱いた黒い猫
*
ふと見上げればはかったかのごとく
トタン屋根には青猫がいて
知らず知らずに月を探してしまう
夜になってしまう前に (ああいけない)
無理やり緞帳をこじあけて
何げない風を装ってしまおう
決して視線をあわせてはいけないのだ
夕暮れ 知らん顔して通り過ぎてゆくもの
*
油断してはいけないよ、
たまさか耳元で囁いたのは誰だ
ひげがあったような
しっぽがあったような (シイッ)
御機嫌いかが、と
埃っぽい風が吹く
どの窓にも猫が一匹いて
ぐりぐりした目玉でこちらを見ている
じっと見ている