賞味期限
伏樹


「もう時は変わっているのよ」

その言葉は自動販売機で手軽に買えた
同じような味が
温かさと名前を変えて
いつも私の方へと急いで駈けてくる

わたしを
わたしのように生かし続けているものは
まだ春じゃないよね、と
ホットココアを選ぶ

急いで
変わらなければいけない
そんな意識だけが強く、ここに、
そしてどこにでもあるのだけど

わたしは
人差し指がどうしてその味を選ぼうとしているのか
知り得たことは一度もなかった

昔、好きだった誰かがそう望んだ先に
今の私があって
そう、そのまま生き続けただけ
嗜好品はつねに変わり続けて
そう、そのまま変わり続けていっただけ

変わらなければいけないのに
私のラベルは私には見えない
変えられていく時のラベルを
ただ消費している



自由詩 賞味期限 Copyright 伏樹 2009-03-03 23:33:15
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