賞味期限
伏樹
「もう時は変わっているのよ」
その言葉は自動販売機で手軽に買えた
同じような味が
温かさと名前を変えて
いつも私の方へと急いで駈けてくる
わたしを
わたしのように生かし続けているものは
まだ春じゃないよね、と
ホットココアを選ぶ
急いで
変わらなければいけない
そんな意識だけが強く、ここに、
そしてどこにでもあるのだけど
わたしは
人差し指がどうしてその味を選ぼうとしているのか
知り得たことは一度もなかった
昔、好きだった誰かがそう望んだ先に
今の私があって
そう、そのまま生き続けただけ
嗜好品はつねに変わり続けて
そう、そのまま変わり続けていっただけ
変わらなければいけないのに
私のラベルは私には見えない
変えられていく時のラベルを
ただ消費している