冷え性
たもつ

 
 
掌で階段を育てた
せっかく育てているのだから上ろうとすると
いつもそれは下り階段になってしまって
悲しい人のように下の方を見ていた
その隣を弟は快活に上っていって
一番上まで行くと私に向かって大きく手を降った
掌に階段があったので
手を振り返すことはできなかったけれど
笑顔で返すことはもっと苦手だった
それでも弟は冷え性で冷たい私の指先を取り
温かい、と言ってくれた
近所に小さな戦場があって
毎日砲撃の音が聞こえた
耳で手を塞ごうとしたけれど
掌に階段があったので
やっぱり塞ぐことはできなかった
弟は時々戦場に遊びに行っては
戦利品、と称して
焼け焦げてまだ温かいままの金属片や
イニシャルのようなものが刻まれた装飾品の類を持って帰ってきた
恐くなって庭に埋めようとすると
良い人は戦場では死なないから大丈夫だよ
と弟はまた快活に笑った
良い人は戦場では死なない、ということがわかると
明日は生きてここにいない気がして
弟の戦利品のために何を持っていこうか考えたりもした
もしこれが幼少時代というものならば
掌の階段もすべて枯れて
幼少時代なんていらないと思った
 
 


自由詩 冷え性 Copyright たもつ 2009-03-02 17:34:53
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