ははおや
亜樹

胃が痛いので、胃薬を飲む。
ほとんど毎日飲んでいる。
先日それが母親にばれて、病院にいけと煩い。
だので、それからは隠れて飲んでいる。

 ねえ、かあさん。
 どうしてわからないんですか。
 あなたはそうして、わたしがなにかするたびに
 沈痛そうに顔をゆがめて
 心配そうな顔をするじゃありませんか。
 それを見ると、わたしの胃はいたくなるんです。
 だってもうしょうがないんですよ。
 知らないんでしょう?
 あなたが見つけた胃薬がもう二瓶目だなんて。
 知らなかったんでしょう?
 だからもう気にしないで下さい。

母親はしきりに病院に行けという。
行ったところでどうにもならない、金もない、時間もない。
そう私が答えると、心底厭そうな顔をする。

 ごめんなさい、かあさん。
 心配かけてごめんなさい。
 でももうどうしようもないんです。
 あなたのせいではないのだから、お願いだからもう放っておいてください。
 だって知らないんでしょう?
 私が風呂場で泣いてることなんて。
 だって気づかないんでしょう?
 私がときどき過呼吸の発作を起こしているだなんて。


 知らないのなら、ないのとおんなじことなのです。
 気づかないなら、ないのとおんなじことなのです。
 だったらもう、そのままでいてください。
 不意に見つけたそのときに
 不意に気づいたそのときに
 今更そんなに嘆くだなんて、
 それはあんまり卑怯じゃないですか。
 長い長い年月をかけて
 漸く私は自分に見切りをつけたのですから。
 こんな自分に一生付き合うより他ないと、
 漸く腹をくくったのですから。

 だから、だから、ねえ、かあさん。
 お願いだから、ゆるしてください。
 こんなむすめをゆるしてください。


散文(批評随筆小説等) ははおや Copyright 亜樹 2009-02-25 22:53:45
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