深海闊歩
百瀬朝子

水深五千メートルの深海
あたしの心は沈んだまま
光の届かないそこを
闊歩する。

太陽光の届かないそこでは
光合成を
できなくなった植物が
みどり色するのを
やめた。

生き抜くために
進化を遂げた
順応した心では
夢のかけらさえ
見つけられなくて
闊歩する鼓動は
焦燥を隠せない。
水面に
引き寄せられる
気体の泡が
数を増した。

水の冷たさに
慣れていくように
孤独や悲しみに
慣れてゆく私たち
持ち越せない悲愴感
漂うように
闊歩する。

秒速数センチメートルの海流は
あらゆる足跡を
残しては
くれなかった。
それでも
心は
光の届かない暗いそこを
闊歩しつづける。


自由詩 深海闊歩 Copyright 百瀬朝子 2009-02-25 21:34:18
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