呆日。
ヨルノテガム
綾瀬クン、きょうは
あの山へ行ってみようか
気晴らしと気まぐれに
若草山をふと指差した
―ハイ、。
なんだキミ、行ったことあるの はじめてじゃないんだ
ボクはまだ行ったことないよ
見晴らしも、夜景も綺麗ですよ―っ
へえ。
へえ。(まねした)
そして結局、行かなかった
綾瀬クンの記憶をおしゃべりしている内に
もう充分行った気になってしまった。
替わりに喫茶店でコーヒーとパフェを食べた
綾瀬クンが指差したのは古い知らない喫茶店だった
暗い店内が少し明るくなった気がしたのは
入り口の扉の上についたベルを鳴らしたことから始まった
綾瀬クン、さっきの山
やっぱり行ってみようか
―ハイ。
小一時間ほどして、また同じことを言って
また同じことをする。
*
もしもし、先生?
今、何してるんですか あ、そうなんですか
わたしね、今 若草山なんです
え――って 近くに来たんで登っちゃいました
はい、とても寒いですよ
キレイです
一望ですから
ハイ、綺麗に見えます
振りませんよ、
振りませんから、
オーイ つって
ハイハイ、振りましたから
もう嘘ばっかり、はい、
ちゃんと帰ります、
はーい、また明日!