むささび 渡る
Giton
あしひきの 山路もわかぬ いはがきの
やまぶき散るらむ 嵐ちかづけり
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みちの奥の 大白森に
時なくぞ 雨は降りける
山人の杣
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目覚むれば 早朝にむささび 渡りてむ
大白森の 木末見上げぬ
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留火の 明石の磯を 過ぎつらむ
はや暁と なりにけらしも
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いにしへの 明石の門にて 明け空を
仰ぎて見れば 浮かぶ架け橋
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暁の 明石大門に さしかかる
船の行く手に 浮かぶ架け橋
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走り出の つつみに立てる 槻☆の木の
秋ともなれば ひともと耀く
☆槻:ケヤキ
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秋空に 彩る木々は 思ひ思ひ
せに似たる木を 探し見むわれ
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さ嶺嶮し 相模の渓に
君はしも 四十年こえて
なほも魂燃ゆ
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かぎろひの もえたつ焔 なほ消えず
よもつ野原に 駆け惑ふ君かも
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葛飾の 真間の浦回に
そよぎ渡る 秋風に乗り
吹き寄せね吾が背
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夕迫れば 雲井波立つ 蒼海に
暮れしづむかも 消ぬる残り火
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われはそも 野辺の月草 摺らゆとも
思はぬ人に 染むことあらめや
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谷深く 森繁けれど
径のへの みやまかたばみ
木洩れ陽に咲く
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にほどりの 葛飾の野に 霜おけど
八幡の宮に 人の絶えなく
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葛飾の 八幡の宮に 人繁く
日がな一日 絶えず鐘の音
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東風吹かば 屋戸の梅の香伝へてよ
母の枕辺 ゐ添ふわが背に
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日にけにも たよりはあれど はしけやし
われは思へど 背は遠くあり
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はしけやし かなしくあれど 背を遠み
春の光に 笑みて語らふ
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初春の 雲なき空に 入り日差し
友と語らひ 暮るる日もよし
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さやけき夜 波立つ雲の 空高く
浮かぶ眉根に 君の面影
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新玉の 年月を経て 逢はなくに
君の面影 繁きこのごろ
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国境 嶮し嶺生ふる 石つつじ
はしき小鐘を 人の知らなく
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すだ椎の きんに耀く たそがれの
燃ゆる長髪 背子し思ほゆ
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冬越しの 枯れ葉のこれる いぬぶなの
幼き枝に 粉雪の舞ふ
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雪深み 山路にしるき 踏み跡に
水源巡視の 人らを思ふ
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風は吹き 雪は積りて 融けなむを
路辺ふたもと 墓標
立つ
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待つ君の 肩にかかれる 白雪は
底冷ゆる夜に 温かきかな
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草繁る 隧道深く アブトの音
耳を澄ませば 風吹き抜ける