逝く前に、鮨だ! ★
atsuchan69

オメエ、死ぬのかい
――だったらよう、
せめて逝く前に鮨食おうぜ
肝っ玉据えて、俺と鮨食えよ

粋な麻暖簾くぐってさ
どうぞ勝手に席へ就いちまいな
捌いたネタと酢飯の匂い、
舎利の温(ぬく)みを感じるか?

――わかんねえ、
なんて言わせねえ。
そんな奴は胡瓜でも齧ってろ
薄紅のガリを抓まんでよ、
涙巻き喰らって笑いやがれ

煮蛤に、海鼠に、鮟肝だ、
縞鯵、寒鰤、栄螺、九絵
急ぐなら、よし握って貰おう
海胆、小肌、蝦蛄に岩牡蠣、星鰈

酒は久保田か菊姫か
よっしゃ、海老の踊りでも頼もうかい

お猪口でちょこっと酒呑みねえ
烏賊の印籠詰めでえ、喰ってみろ
鮪の背トロもいいけれど
おう、玄界灘の天然黒鮑だぜ!

なんてぇ豪勢な歯応えなんだい

――ええと。
それでオメエさん‥‥

首吊るんだったっけ?
じゃあ、スマン
逝く前に俺の分も勘定払ってよ
二人で、たったの四万円

今日は本当に御馳走さん、
あの世でも、どうかお達者で――



自由詩 逝く前に、鮨だ! ★ Copyright atsuchan69 2009-02-23 23:59:38
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