不能者
前澤 薫
私は不能者になりました。できると思っていたことができなくなり、もはやこれ以上どうすればよいのか分かりません。隠し通して生きることもできません。少しずつ私の生活に侵食してくる恐れや不安が今有ります。抗うことはできるだろうか? あの時の分を少しでも取っておけば、と思っても手遅れです。
私はナイフを取り、手首に持っていきました。狂気に満ちた音楽に乗せて勢いよく切ろうと刃を手首のところに当てました。青白い血管が細く何本も見えます。刃を横へ引きますが、肉の中に入ろうとはしません。カッターでもやろうとしましたが、やはりだめでした。生きることも死ぬこともできません。
もはや、生きることのみに生きることに相成りました。ただ今はなけなしの金を少しずつ崩しながら、沈黙の中、朝晩を過ごすばかりです。
私は不能者になりました。