森、笑う(B)
Giton

けぶりのような通り雨を浴びて、
森のすみずみを洗い流す御使い、
木々の笑い声が聞こえるかい?
人影絶えた午後の闇で、

若葉たちの含み笑い、
ひそやかな蚊のまぐわい、
靄に解けこむ花芽、
濡れた実が枝をたわめ――

哄笑する森の奥、
腐植色に染まる飛沫、
はぐれた猪仔が、ぬた場に立つ、
茜色なお遠く、

雲が動く、森は口を広げ、
顔を出す夜空、のろ鹿のにこ毛、
忘れられて錆びたレールたち、
二頭の獣が、ぽつんと月の出を待つ谷地。

笑声の途絶えた森、音もなく
眠る森、虫を吊るす糸ゆらぐ、
きみたちだけが目覚めている砂地、
すすきの穂のまに遠く光る街。


自由詩 森、笑う(B) Copyright Giton 2009-02-22 22:37:51
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