白山千振尾根、秋
Giton
海岸の砂のひとつぶひとつぶに個性がある
ように、木らにも体温があり心があった。
葉緑素分解のわずかなずれ、葉ごとの
むらが、木らの性を際立たせた。
融雪の下で、再生の準備に余念のない木らは、
自分のことでせいいっぱいだった;
真夏の太陽のもとせわしく働く木らには、
身を飾るいとまはなかったが、
晩秋、森のなかが急ににぎやかになる、
思い思いの意匠を凝らした巨樹がひしめいて、
森は、息をつく隙もない展示場だ、小さなぶなの
実が雨のように降り注ぐ、鳥が飛び交う。
秋は、一年の収穫を自慢しあう木らの
晴れの舞台、一所懸命働いてくれた
木っ葉たちと別れる質素な鄙の
宴、冬籠りの支度をする厳粛な儀式、
ああ、どんな抗いをも、生命の問いかけ
をも拒む、このおどろおどしろしい
剛直な空間は、自然にも等しい
掟の生き様は、鳥や蝶を追いかけ、
焼け跡の自由の荒野に育った
俺に、人知れぬ涙をあふれさせるのだった。