ノスタルジック
Anonymous
物語を
ネガとポジという物事の光と闇に
ライトを浴びせ
一コマ一コマ丹念に読経のように
語り紡ぐ
黄金色に輝く映写館があるのだと
祖父はわたしに教えてくれた。
当時僕は6歳で
その存在を知るよりも先に
ブルーレイの存在を知ってしまっていた。
だけれど、僕がブルーレイに落とし込まれた
情報という名の物語の迫力を伝えようと
必死にがんばってはみたものの
祖父の語り口のノスタルジックな調子ほどに
相手に深い感銘を与えることはできなかった。
祖父は一生懸命驚いてみせてくれてはいたが
それは所詮孫相手の単なる芝居であることは
それくらいのことは
当時僕は6歳だったけれど
わきまえてはいた。
僕はとにかくその映写館なるものを
一目見たいと切に願ってみたが、
「この辺りにはもうありゃあせんのだよ。」
祖父にそういわれた。
それがさも残念そうな物言いで、
そのしょぼくれた曲がった背中に
孫のわがまま心がむくむくと
夏の入道雲のように雄大に膨らんできて
僕は泣きながら祖父に当たり散らし、
母親にぶたれた。
祖父は僕をかばってくれたが、
なぜだかわからないが、それが一層腹立たしかった。
今でも覚えているくらいに。
次の日。
僕は誰も知らない素晴らしいものを知ってしまった興奮を
一人で抱えることができなくなっていた。
一刻もはやく誰かに自慢したくてたまらなかった。
友達に会う度にそれを
まるっきり祖父が僕に聞かせてくれたそのままに
自慢げに語ってみた。
だけれど
祖父の語り口のノスタルジックな調子ほどに
相手に深い感銘を与えることはできなかった。