ニューアンティークバード
千月 話子
買ったばかりのアンティークの電気スタンドを眺める
フレアスカートのように広がった
ランプシェードに住む小鳥は 確か2羽
反する木の枝に止まっていたような
月と星 あるいは惑星と呼ばれるものが
今夜 もっとも近づく頃
何気なく手に取った
古い純愛小説など読んでみる
左指がページをめくると2人は出会い
右手の平が危うさを受け止める
ゆっくりと流れる時間が
もどかしい と読み進める21世紀の現在
最終ページで2人は初めてキスをした
枕元を照らす丸く柔らかな光りの中で
作り物の小鳥が(確かに)チチチと可愛く鳴いた
物語は朝焼けの雪道に残る足跡を輝かせ
静かに終わりを告げ
西洋からやって来た名も知らぬ小鳥が
絡まるように 2羽
小さな窓から逃亡した(あるいは駆け落ちというのか)
徐々に寄り添っていた2つの羽毛も
また 密かに純愛していたのだろう
そして アンティークショップの心地良い時代を経て
この 小さな部屋で完結する
生きているものだけが生きているとは限らない世界を知った
窓の外では何も変わりはしないのだけれど
少しばかり顔を上にあげて
目を閉じ 耳を澄ませる
時の流れる音が聞こえるかもしれない
一番愛していた頃の あの
ランプシェードの木の枝に知らぬ間に巣が作られて
私は何度繰り返しただろう
新しい命を孵化させて それを
この部屋では
少しずつ収集した古い古い本の
あらゆる背表紙から
小さな花の芽が生え始めたばかりで
私の肩甲骨は浮き上がるように重くなっていく
もう いいでしょう
私のを産み落としたいのよ
私の新しい命を
明日から背中の割れる音がした
古い家は様々な花や草に覆われて
私の長く尖った爪を突き刺して
窓の隙間から切れ込みを入れると
青い空が広がっているだろうか
私もまた殻を破り続けて
長い夢を見続けるのだろう
そして
現実と非現実の世界を
過去と未来を
飛び続ければいい