A fond, A fond,
藤坂萌子

A fond, A fond,
もっと 振って もっともっと

どこか遠くへいきたいな
おねえさんがそうつぶやいたのを聞いた時
世界には
どこか遠くがあるのだと知って
突然、彼女はあこがれの地を手に入れたのだった

甘美な言葉だな
知らなかった
気がつくまでは
どこか遠く、など

21世紀最初の10年の締めくくりに、
乙女たちのあいだでは、エコバッグづくりが流行中
巷には趣意趣向を凝らしたエコバッグが溢れていて
カラフル!だよ
みんな、にこにこしている

みつめていることしかできない

手に取らないようにしてきたものばかりが
順番にまちかまえている

注意ぶかく
わたしには、エコバッグに入れたいものがないのだと言うと
旦那さまが
一人ではないよ、
きみは、一人ではないよ、と云う
(とてもそうは思えない)

身体じゅうを振って
いつかの大音量の音の中が最高記録だったかもしれぬ
戻りたいわけじゃない
A fond, A fond,
もっと振って、もっともっと
どこか遠くへ

まだ、迷子になどなるつもりはない



自由詩 A fond, A fond, Copyright 藤坂萌子 2009-02-20 23:49:18
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