楽園
山中 烏流





・庭園にて


裸足のままならば
何処にでも行けるのだ、と
喉から生えた腕が
口走っている

嘘吐きの元は、この腕です

そう囁く林檎をかじりながら
その腕を引き抜くと
私は、何故か
話せなくなってしまった



・湖の夜


枯れ葉の擦れ合う音が
粘り気を携えて
私の耳元で跳ねている

そのせいか
水面に映り込んだ月が
まるで
ぽっかりと開く穴のような
幻を見た

宙吊りにされた紐が
私を見て、笑っている



・謁見


私の顔を覗き込んでいる
そのひとの顔形を
私が知ることはない

名前を呼ぶことすら
ままならない、という
もどかしさ

秘密も大概にして欲しい

呟いたところで
誰に届くことも、ない



・宮殿


手のひらの輪郭が
薄く、ぼやけて
そこから
様々な色が
溢れ出していった

それを啄んだ雀は
窓枠に溶けていき
今も尚、さえずっている


もし、今もまだ
雀なのだとしたら

何故生きているのか
教えてほしい



・階段、そして門


格子の間から
そびえ立つ灰色が見える

階段を降りきった先で
私を待つものは
望んでいたものなのか
それとも、


機械的な動きで
門を開いていく
迫り来る様々の洪水は
私を
何処へ連れ去るのか
定かではない


もう一度、目を開けたとき
そこは
今よりも優しくて、
暖かいだろうか





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自由詩 楽園 Copyright 山中 烏流 2009-02-20 21:40:04
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