物質世界のスクリーン
エルメス
意外なことに、人間の感情は科学的に解明されていない。
何故、クオリアが発生するのか。これが解明されていないからだ。
それはすなわち、何故人間は感情をもっているのか、という問いに等しい。
人間は、感情を持ち、自分がどうするかを選択している。
これは、一見当たり前のようでもある。事実、我々は自分の思うままに行動しているからだ。
しかし、科学的な見地からは、それはあり得ない。
ただ、物質が物理法則に従って運動するだけのこの世界に、そんなものがあるはずがないのだ。
しかし、それは同時に自分たちを否定することになる。
それはできない。
だって、今、僕は此処に居るんだもん!感情もってるんだもん!哀しいし、寂しいんだもん!
では、感情とは何なのだろうか。
物質が運動することのみによって、
脳に電流が走ることのみによって、
人間はただ運動しているだけなのだろうか。
もし、そうなのだとしたら、人間は一切の選択権を持たない。
人間だけではない。全ての生物について同じことが言える。人間は少し高度なだけ。
ただ、「意識」や「感情」という幻想を見ながら、物理原則に従って運動するだけだ。
そう、僕がこの文章を書くことも。君がこの文章を読むことも。
僕がそれを選択したわけでも、君がそれを選択したわけでもない……かもしれない。
さて、これから先の君の行動を、果たして君は君自身の手によって選択できるか?